乙妻山 裾花川 地獄谷
沢登りで思わずニッコリ笑みが溢れる瞬間といえば、ナメ歩きのひとときであることに異論はなかろう。美しいナメは人の心を浄化し、俗世から解放する。 裾花川は高妻山を源流にした長大な谷である。大系には、「これらの沢はさして険悪なゴルジュがあるわけでもなく、極端に難しい大滝を懸けているわけでもないが、その美しいナメや淵は、この辺りに伝わる古い伝説を彩りにして、訪れる遡行者に静かな満足感を与えてくれる。」とある。禍々しい岩壁を従えた戸隠の懐にそのような桃源郷があるなんてにわかに信じがたい。 奥裾花ダムから林道をしばらく歩き裾花川に入る。本流の遡行はしばらく穏やかだ。やがて沢幅が狭まりゴルジュとなる。軽く泳いで越えると6m滝が落ち込む地獄谷出合だ。右壁から登るとすぐに、滝が2つ続く。岩は少し脆いので慎重に登りたい。滝を越えると沢は穏やかになりナメが現れる。ナメはどこまでも続き、思わず踊り出したくなるほどの美しさだ。8m滝を越え、途中の倒木帯を抜けると森が近いナメの小路が続く。10m滝を越えると、地形図の滝マークのある二俣だ。左俣に入るとすぐに2段30m滝が落ち込む。スイートなナメに浮かれ舐めて右壁から取りつくと、思いの外悪い登りを強いられる辛口の滝だった。水流が細くなりガレっぽい沢を登っていく。水流が枯れ、二俣を左に入るとスラブが突如現れる。ウロコ状のスラブはフリクションがよくすこぶる快適だ。名残惜しく登りきると、藪漕ぎ少しで乙妻山山頂だ。 地獄谷は訪れる遡行者に静かに、否、大いに満足感を与えてくれる甘美な渓である。メローなナメをご堪能あれ。