毛猛山 黒又川 中岩沢 中ノ沢


 毛猛山一帯の地形図を見ていると、自然と目尻は下がり口角は上がってくる。過密な等高線と蛇行した水線が記される地形図は、眺めるだけでも目眩がしてしまいそうだ。登山道はほぼ無く、黒又川ダムと鉄壁の藪の要塞に立ち塞がれた山塊は伏魔殿と呼んでも差し支えないだろう。そんな毛猛の中でもひときわ存在感を放っているのは黒又川中岩沢だ。アプローチが難しい立地環境に加え、核心部と思わしき場所は息が詰まりそうな閉塞感を醸し出している。地形図上に刻まれた苛烈な皺は、この目で実際に覗きに行かねばならない。中岩沢には西ノ沢、中ノ沢、東ノ沢とありどれも興味深いが、毛猛山にダイレクトに登り詰める中ノ沢に潜り込むことにしよう。

中岩沢は入渓するにも一苦労だ。黒又川第2ダムのバックウォーターまで比較的労せず行くならば、先人にならいキンカ沢から上の大沢を辿るのが容易そうだ。

上の大沢から黒又川に合流する。夜半から朝までかなり雨が降っていたため、水量が心配だったがバックウォーターの水位は低いようだ。ウォーミングアップにもならない泳ぎで中岩沢へ入る。中岩沢の方は出合いからゴルジュ地形で暖気は十分な様子だ。釜を持つ4m滝を越え少しすると沢は穏やかになる。東の沢出合までは大きな滝はなく、小泳ぎを交えながらワンパク水遊びといった具合である。東ノ沢を越えると渓相もアダルティな雰囲気を増してくる。水量や滝の規模こそ大層ではないものの、巻いたり泳いだり登ったりと地味ながらも忙しい。20m滝を越るとようやく中ノ沢の出合いである。

中ノ沢に入るとすぐに7m滝、4m滝と続く。2段12m滝を巻くと地形図に記載のある滝マークの20m滝だ。傾斜のある美瀑で飛沫に光が差して気高い雰囲気を醸す。直登は厳しいので左岸から巻くが割合やさしく小さく巻ける。沢はつかの間おだやかさを見せるが、すぐにゴルジュ地形となり、手頃な5m前後の滝がいくつも続く。登れそうな12m滝は右岸から巻いたが思いのほか悪い。小滝の連瀑が終わると沢が少し開け奥にも滝が続く25m滝を迎える。中ノ沢の陰湿な滝ばかりと対峙してきたので、優美なその姿が眩しく写る。登攀も極めて清々しいもので、中ノ沢随一の滝登りが楽しめる。3連の大滝を登ってもなお、滝の量と質の勢いは衰えない。10m以下の滝をいくつも登らされることになる。左俣を見送り右俣に入る。水量が減りスケール感も小さくなるが3~5mの小滝が続く。山頂ダイレクトに詰める沢に入る手前には30mほどの大滝がかかる。お腹も時間もいっぱいなので右岸からサクッと巻こうとするが、大きく巻き上げられてしまい苦労する。源流の様相になっても、地味な滝が続き稜線直下まで水流が続く。水枯れの後、稜線直下は少しボロい岩とシャクナゲという構成でやや傾斜があり地味に悪い。ヒヤヒヤしながら登りきると、山頂までほんの僅かな地点へと出た。夕暮れが迫り、夏の毛猛山に登れたよろこびを噛み締める時間はほんの僅かだ。

下降は毛猛沢本谷右俣を選択するも、かなり手こずり、すっかり日が暮れてしまう。暗闇の中、毛猛沢本谷で大きく口を広げた底気味悪い巨大な雪渓の中に下降していく。正気では降りれない。極めて悪い草つきから、何とか雪渓に乗り上げた。本谷の下降は水量が多く暗闇では手厳しい。夜通し歩いてゴルジュ帯をぬけきったところで朝を迎えた。朝ぼらけ、光を心身に浴びたとき、生命体としてえも言えぬよろこびに満ち溢れた。

中岩沢最初の4m滝

ゴルジュ帯

美しい岩盤

フリクション良好

泳ぎが多いゴルジュ帯

20m滝

中ノ沢の滝マーク

快適な遡行

12m滝

25m滝の快適な登攀

25m滝上の10m滝

右俣連瀑帯

源頭部も地味な滝が続く

毛猛山山頂へ至る稜線

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