丸山岳


丸山岳は駒・朝日山群のほぼ中心に位置する奥深い山で、山頂に広がる草原地に池塘が点在しており、さながら南会津の桃源郷とも呼べる山だ。幽邃の谷を遡行し、別天地のような山頂に飛び出した時には、丸山岳に愛おしさを感じずにはいられないだろう。

さて冬の南会津は国内でも指折りの豪雪地帯で知られている。会津駒周辺こそ賑わいを見せるが、会津駒周辺以北の山々は今尚静けさを保っている。丸山岳ともなると冬期に登られることは稀であろう。豪雪の深山に登る労力は想像に難くない。深雪の要塞に閉ざされた丸山岳に辿り着くためには、鉛色の空のもと雪にまみれ歩き続けなければならないのだ。

奥只見ダムから袖沢林道に入ると、思わず笑みが溢れるほどの豊富な積雪量で歓迎される。只見川へ下る道から猛ラッセルが始まる。丸山岳の稜線に上がるためには、どこかで只見川を渡らなければならない。渡渉をせずに上大鳥橋を渡る事も考えられるがラッセルの労力は計り知れない。事前にアタリをつけていた場所で渡渉して尾根に取り付いた。この時期の只見川の水量は少なくて渡りやすい。しばらく藪っぽい急登を登ると、尾根のブナに電源開発前の時代の古い切り付けがあり驚かされる。稜線に出ると風雪に晒されて苦しい。会津の湿雪は身に纏う衣類を無慈悲にも濡らす。下着から寝袋まで全てが初日で濡れて心が折れそうだ。丸山岳までに至る稜線は技術的な難所は無いので、黙ってラッセルをするだけだ。とはいえ水分を多分に含んだ雪は重く気が滅入る。山頂直下になるとようやく雪が締まり、永遠と思われたラッセルから解放され、樹氷にお出迎えされる。辿り着いた丸山岳は雪以外存在しない無機質な白い空間であるが、夏のあの山頂の穏やかさをほのかに感じるのは何故なのだろうか。帰り際に奇跡的な晴れ間があった。存在感を放つ荒沢岳の雪稜が輝き、丸山岳の山頂が柔らかく顔を出す。雪を纏った未丈ヶ岳の山容は美しいと形容する他なく、朝日から駒の稜線はどこまでも続いていた。只見川を再び渡渉して、最後の鬼門である袖沢林道ラッセルをして奥只見ダムへ戻る。

憧れの冬の丸山岳。深い雪に閉ざされたブナの楽園。歩くだけで登れる山ではあるが、果たして登りたいと思えるだろうか。とどのつまり冬の丸山岳は愛がなくては登れないのだ。

只見川渡渉



湿雪重雪



電源開発前の切りつけ



連日悪天



しんしんしん



永遠と空荷ラッセル



ブナ林



縦横無尽のウサギの足跡に癒される



樹氷



丸山岳山頂

奥只見湖と荒沢岳






丸山岳が唯一姿を見せた



奇跡的な好天



只見川へ降りる



林道ラッセルがこたえる




只見川の水量によっては渡渉できず、帰れない可能性があるので慎重に判断を下したい。また年末年始のこのルートは下山が遅れてしまうと、シルバーラインが閉鎖され、最悪脱出できなくなる可能性があるので注意が必要である。

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